与謝蕪村の間

俳人画家・与謝蕪村

江戸時代の俳諧の三大巨匠として松尾芭蕉・小林一茶と共に名を馳せた蕪村は明和3(1766)年の秋から明和5(1768)年・夏にかけて幾度も讃岐・香川を訪れ、当山に滞在し「蘇鉄図」などの名画を揮毫。寺宝として大切に保存されており、妙法寺が「蕪村寺」ともいわれる所以です。
当山所蔵の蕪村作品は昭和46(1971)年6月、国の重要文化財に指定されており、蕪村の間でご覧いただける作品は、デジタル技術を駆使した実画と違わぬ複製になります。

所蔵作品

国指定重要文化財(1971年6月22日指定、絵等1669号)

作品名 表装 款記
紙本墨画「蘇鉄図」 四曲屏風、一双 階前闘奇 酔春星写
紙本淡彩「寒山拾得図」 襖貼付、四面
紙本淡彩「竹の図」 一幅 擬董其昌 虚洞写
紙本淡彩「寿老人の図」 一幅 虚洞写
紙本淡彩「山水図」 四曲屏風、三隻 明和戊子夏四月謝春星写
紙本淡彩「山水図」 四曲屏風、一隻

※公開作品はいずれも複製であり、「蘇鉄図」は蕪村が描いた当時の襖絵を再現しています。

  • 蘇鉄図

    蘇鉄図

    庭にある蘇鉄の様を描いた蕪村の讃岐時代の代表作であり、その優れた技量と観察眼が反映されています。明快な構図の中にある筆墨と力強い筆さばきに気魄が感じられる本作は、かつて旧本堂の襖絵として当山を見守った後、文久2(1862)年に屏風へ改装され、現在に至ります。

    モデルとなった「崩れ石の庭」

    与謝蕪村の間から見渡せる庭には「蘇鉄図」のモデルとなった蘇鉄があります。江戸初期の茶人で美術工芸や建築、造園にも長けた小堀遠州が築いたとされており、「崩れ石の庭」とも呼ばれる本庭。季節ごとに彩られる様を蕪村の絵と共にお楽しみいただけます。

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  • 寒山拾得図

    寒山拾得図かんざんじっとくず

    縦197cmの襖四面、日本最大級の「寒山拾得図」の襖絵と考えられ、讃岐時代の大作ながら画集や図録への掲載がほぼない貴重な作品です。寒山と拾得は中国唐代の僧で、天台山国清寺の豊干の弟子。寒山が文殊菩薩の、拾得が普賢菩薩の化身と称され、2人の自由奔放かつ奇抜な言動は『寒山詩集』に伝えられています。

  • 寿老人図

    寿老人図

    七福神の一人としてお馴染みの寿老人。本山に所蔵の寿老人図は、頬のほのかな赤みがほろよい機嫌を彷彿とさせ、何とも微笑ましい作品となっています。蘇鉄図の力強さと対局にある緩やかな描線、温雅な寿老人の姿が心和む作品といえます。

  • 竹図

    竹図

    中国の画家・董其昌(とうきしょう)の絵をまねて描いたものです。画面のどこかで絶えず動いて止まぬ竹の葉の描法は、まさに絶妙という表現に相応しい描写です。款記は「擬董其昌 虚洞写」、「虚洞」とは蕪村の号であり、京都東山三十六峰にちなんで三十六の号を使い分けていました。

修復・複製事業

奇跡の修復

1968年に油性マジックペンで落書きされるという憂き目にあった「蘇鉄図」と「寒山拾得図」。国の重要文化財指定後、国立文化財研究所によって修復が試みられたものの、墨絵はそのままにインクのみを除去することは不可能という判断となり、当山に返されました。 それでも諦めきれず、1977年に“しみ抜き技術日本一”といわれた表具師・武智光春氏に修復を依頼。5年にわたる研究を経て薬剤と技術を確立し、奇跡ともいえる修復を実現。1983年、15年の時を経てマジックの落書きが取り除かれ、見事に蘇りました。

「幻の絵」の復活、デジタル複製画の公開まで

幻の蕪村画「寒山拾得図」を本堂の襖絵として皆さまに是非ご覧いただきたく、超高解像度でのデジタル複製画を制作するため、予算の一部をクラウドファンディングで多くの方からご賛同いただき、2022年にデジタル複製の襖絵が完成しました。 1968年以来、寒山のお顔が欠損していましたが、2021年から妙法寺と東京文化財研究所が共同研究事業を立ち上げ、復元と複製に取り組みました。その道のりを動画でご覧いただき、見事に元の姿に戻った作品をご鑑賞ください。